Before/取組み前の課題
・工程間の事務作業が重複
・受注増による作業負担への不満
After/取組みによる効果
・業務の一元管理による効率化
・作業効率向上で残業ゼロ・休暇取得促進
株式会社樫の木製作所の取組事例

業種
取り組みテーマ
“週休4日”で、しかも今の給料のまま。それが実現できたら、社員はきっと喜ぶはず——そう考えていたのは、越谷市の株式会社樫の木製作所・代表取締役の大隈航大さんだ。

樫の木製作所は、家電やパソコンなどの電子機器に使われる電線ケーブルのコーティング用フィルムテープを製造する会社。現在では厚さ0.0025ミリメートル、幅0.6ミリメートルのテープも作っている。先端技術の世界でもさらに先端を行く製品は需要が多く、注文は順調に伸びている。
注文が増えれば、工場の稼働時間は長くなり社員の作業量も増える、というのが製造業の常だろう。
しかし、樫の木製作所では、この2年間、売り上げが伸びても残業はほとんど増えず、有給休暇の取得もしやすくなったという。総務、経理などの管理部門や、受注から生産管理、発送までの製造プロセスに関わる間接部門の作業をDX化することで、それが可能になった。社員の休みが増えるという現状は、DX化を進める際にどれくらいイメージしていたのか、という問いに対して出てきた答えが冒頭の「週休4日」だった。
樫の木製作所の場合、休業は土日のみで、製造業なので休業日を増やすわけにはいかないが、有給休暇が取りやすくなり、さらに1人が取れる有給休暇数も増えたことで、休業日以外に休みを取る社員は増えたという。
また残業手当が減ることへの不満も想定し、実残業の有無にかかわらず固定残業代を月に20時間つけることにした。実際にはほぼ全員が定時で帰っている。
大隈社長は先代である父親の後継として現職に就くまでウェブ広告の営業に従事していた。デジタル関連の知識が豊富だったことで、DX化を進める上でのハードルは低く、数年前、業務に合ったアプリを自分で開発できるツールが登場したころ、それを使ってみた。
「それで、いろいろできるというのが分かって、そういうことを進めていったら、いろんなところでいろんな効果が出てくるんだろうなっていうふうに思ったんですね」
その後、営業支援ツールを扱う会社に打診したところ、考えていたことは全部できると説明された。初めは信じられなかったが、すぐにデモ画面を作ってきて説明され、魅力を感じた。
DX化で作業効率が上がれば残業が減り、休みも取りやすくなる。と考えた大隈社長だが、移行はそう簡単ではなかった。
製造部門より、事務方である間接部門の抵抗が大きかったという。
「現場は、物を作るというところは変わりません。指示系統とか記録のやり方がそれまでやっていた方法と変わるので、ちょっとやりづらさがあって嫌だ、という人はいましたけど、事務作業になると一から十まで変わってしまう部分がたくさんあるわけです。それですごく嫌がられましたね」と大隈社長は振り返る。
製造部門では、それまで紙の製造伝票に書き込んでいたものをタブレットなどに入力するという変更はあっても、現場での作業自体は変わらない。
一方、間接部門では「その人でなければわからない」というふうに“属人化”している作業が多かった。それを誰でもできるようにする、というのがDX化の本質だが、その仕事ができるのは自分だけ、ということにプライドを持っている社員にとっては「誰でもできるようになる」のを好まない人もいたのだ。
しかし、DX化は作業効率の向上だけではなく、中長期的な会社の経営を考えても必要だった。たとえば社員が退職した場合、担当していた作業を後任者がこなせるようになるまで時間がかかれば、短期間でも支障が出る。そう頻繁にあることではなくても、それを想定した準備をしておくことが社長としての責任でもあった。不満や抵抗もあり、残念ながら退職した社員もいたが、大隈社長は確固たる信念を持ってDX化を進めていった。
新システムは約1年間、従来のやり方との並行稼働を経て、2023年の9月から正式稼働になった。
「工夫する発想も生まれた」
——工場長・酒向康信さん
「以前は“記録書”という紙に手書きしておりましたが、今はタブレットになっております。若い子は操作がすごく速いですね。最初はついて来られない人もいましたが、一度軌道に乗ってしまえば、工夫したりする発想も生まれ、仕事時間も短縮できているので、以前よりもやりやすいという声はあります」
「問題が起きたとき、今までなら何か起きたとしても気付かないで放置してしまうとか、気付いたけど放置してしまうようなことがありましたが、今は放置したら放置しているのがわかる状態になっているので、そういうメリットも現場ではあります」

ふだんスマホやパソコンを操作していない人には移行が簡単ではなかったかもしれない。しかし、周りがフォローする形をとることで現場に一体感が出たかもしれないと大隈社長は語る。
「それまで“個人プレー”で、この設備1台は誰々の担当という意識だったのですが、DX導入と同時に、現場全体のスループットがみんなの成果なんだよ、ということは伝えていったので、誰々がこの部分はできない、ということがあっても、みんなで協力してやろうという雰囲気がなんとなく生まれていきました」
現場単位で責任と成果を分かち合うというムードの醸成は大隈社長のずっとやりたかったことだった。しかしそういう言葉だけでは動かなかったものが、DX化によって明確になった個人の得意不得意を補い合える良い機会になり、それぞれの技術の幅も広がっていった。
また以前は忙しい時期に受注が増えると、現場では「また注文が来たよ」と作業時間が増えるのを歓迎しないムードもあったが、現在は売り上げが前月対比で2倍になっても、作業時間はほとんど変わっていないという。
間接部門には、見積もりから受注、販売管理、生産工程、品質管理、出荷など、様々な担当がある。「それが全部パラレルで動いていた」(大隈社長)ゆえに“属人化”していたわけだが、現在はすべての段階が紐づいており、受注から出荷までワンストップで進んでいく。特に以前は受注の際に顧客から注文書をもらっていたのを、顧客がシステムに登録する方式に移行していった。入力の作業が大幅に減り、間違いも減った。以前は在庫の数が帳簿と合わないことが多かったが、二次元コードによる管理で、それもなくなった。



「誰でも分かる仕組みが理想」
——業務部・辻 紗織さん
「紙でやっていた業務をデジタル化したことで共有しやすいので、業務を回しやすくなったと思います。個人が抱える案件とかもデータが共有化されているので、いざとなったら基本的には誰でも分かるような仕組みにはなっていると思います。まだ顧客によって独自のやり方があるものもあるので、それも個人で抱えずにもっと誰でもできるようになるのが理想ですね。
それと以前は、ある工程でやっていた事務作業を次の工程でもやっていて二度手間だと思っていたものが多かったんですけど、それが一元化されてスムーズにいけるようになったところもすごく大きいと思います」

「単純な作業が改善されて定時で帰れたり、有給を取りやすくさせていただいているのはすごくありがたいです。ただ、今の営業支援ツールはどんどんカスタマイズできますから、もっと改善を進めていけると思っています」
DX化は作業の変革が最初の目的だが、その結果、変わるのは人の意識。そして樫の木製作所では社員の生活も変わってきた。作業効率が上がったことを、勤務時間や勤務日数の短縮につなげているからだ。
大隈社長は「DX化は途中です。まだ“やりしろ”はあると思っています」と言う。製造現場の作業でも、品質管理などの部分でロスをなくしたり、製品の色合いなども含めて顧客の要望に100パーセント応える改善ができないか、考えているところだ。
それが実現した時の“時短”をあてれば“週休4日”は夢ではない。
働き方が変わることはもちろん、自分の時間が増えることで人間の幅が広がり、ひいては人生も変えるDXの力を、樫の木製作所は証明している。
株式会社樫の木製作所